あらすじ
何気なく、卒業アルバムを見返してしまうとき。
「僕」は、大切な仲間やお世話になった先生を忘れないために、アルバムを見返しているが、あまり良い思い出のない過去にどんどん気分が沈んでいってしまう。
そしてとうとう一気に最後のページまで飛ばしてしまうが、そこには……。
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大学に入学したとき、成人式、就職が決まったとき、同窓会の前……いや、別に何もないときにも、僕にはよく中高の卒業アルバムを見返すことがあった。
理由は多分、忘れてしまわないため。疲れているとすぐに忘れてしまいそうになる。当時、僕を助けてくれた仲間の顔と名前、生まれて初めて夢をくれた先生、あのときの感情がすべてなくなろうとする。
無駄に厚いページをめくっていく。
集合写真に自分の写っている姿はない。クラスの個人写真にだけぽつんといて、何とも言えない無表情で退屈そうにしている。思い返せば、こんなものだったかもしれない。つまらなく、独りだけおかしな方向に捻くれ、誰とも関わろうとしなかった。
ほんとは助けてくれた仲間も、夢をくれた先生も、いなかったんじゃないか?
眠れない深夜を過ぎた名前のない夜、シャッターが閉まっているはずなのにカーテンの隙間からは冷気が差し込む。ため息はアルバムの写真を曇らせた。白く濁る思い出の中で、僕以外のみんなが楽しく過ごしているような気がした。
「仕方ない。全部、いらないと思ってたから。きっと、みんなも忘れてる」
もう見たくなくなり、一気に終わりまで飛ばす。しかし、最後のページには仲間や先生のメッセージが書かれていた。
「頑張って、とかよく言うけど、頑張ってるわ!」「マジで楽しかったです。嘘じゃないよ?」「俺らは消極的なことに積極的でいような」「う〇ち~」「←おいっ! これ書いたやつ殴る」「卒業アルバムで会話すんな」「ちゃんと喋れよ独創性」
声が見えた。
「なんだ、みんなも捻くれてんじゃん」
返答するようにぼそっと呟く。
上瞼がきゅっと熱くなり、鼻がツンとする。
『忘れねぇぞ!』
みんなのそろった声で手が振動し、温かくなる。シャッターを開けると、眠れなかった僕を残念でしたと馬鹿にするように、太陽は昇ってきていた。
卒業アルバムを見返すのには、そういえば、もう一つ理由があった。
勇気をもらうため。
残声をのぞく
2025年3月20日 執筆
著者 八坂零
掲載 芸術の星座
筆者からひとこと
最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。
いかかだったでしょうか。『残声をのぞく』
3月は卒業の季節ですね。めでたく卒業を迎えた方々、誠におめでとうございます。
執筆日は卒業式の日より少しあとですが、これにはちょっと理由があります。
これから卒業する方、もう卒業している方のどちらにも届けたい想いがあったからです。
筆者の卒業式の思い出は、あまり良いものではありませんが(卒業アルバムも物語のような感動できるものも特にないですが)……。それでも、アルバムはなんでもないときによく見返してしまいます。
写真と言葉は時を超えて、小説のタイトルのように「残る声」です。
今年度、卒業する方は、それが小学校・中学校・高校・大学・専門学校等であれ、等しく卒業アルバムをもらうことと思います。また、すでに卒業している方は、部屋の隅や棚や、もしかすると神棚なんかに、しばらく見ていない卒業アルバムがあるかもしれません。
過去にあった辛いことも、楽しいことも、どんな感情があれど、筆者はすべて大切に生きていけたらなと思っています。
みなさんは卒業に関して、過去を振り返ることに関して、どのような考えをお持ちでしょうか。よろしければ、ぜひ、みなさんの考えも聞かせてほしいです。
これから卒業する方、もう卒業している方も、おめでとうございます。しかし、卒業は終わりではなく、これからの旅立ちだと思います。
みなさまの旅が、幸福であることを願っております。
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