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地下深く
石英と絵の具の香り滲みるアトリエに
今にも餓死する私の体は飾られている
一人の芸術家は左手にノミを携える
ありふれた普通の表情で
私の体を一部、削り取る
はらりと落ちる一枚の肌は
何事もなかったかのように芸術家の懐へ
そして、また、トツンと
ノミは音を立てた
数百回繰り返されたのち、音はやむ
芸術家はやはり、ありふれた普通の表情で
しかし、どこか満足げに
私を置いていった
土の中
菌類やミミズや蟻たちに啄まれる台の上に
完成した枝木は「私」という彫刻として飾られている
一人の金持ちは手から札束を投げ捨て
恍惚とした目と気色悪い笑みで
「私」の体の一部に、触れる
手汗と油は涙のように零れ
馬鹿が勘違いして美味そうに舌へ
そして、また、ベリョリと
汚い素手は音を立てた
数えるには至らないのち、音はやむ
糞野郎はやはり、恍惚とした目と気色悪い笑みで
さも、当然の権利を振りかざすように
私を置いていった
地上から少し離れた
川のせせらぎと自然の声が聴こえるツタに
ようやく私ではなくなったナニカが絡まっている
独りの凡庸が何も持たず、たまたま通りかかる
ただ意味もなく、それしかないように両腕を広げ
ことばもなく寂しいと呟き、考える
ツタの葉が偶然に当たると
はっと気を失って倒れ込む
そして、いつか、ギピンと
凡庸はめざめて起き上がった
奇跡の刹那を経験したのち、今
詩人は誕生した
それが私とは知らないまま深くナニカに祈り
私を置いていった
永らく望んだ創作物を手に入れたよう
静かに心は、満たされている
体と彫刻と詩作
2025年5月12日 執筆(2026年1月14日 編集)
著者 八坂零
掲載 芸術の星座
筆者からひとこと
最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。
いかかだったでしょうか。『体と彫刻と詩作』
みなさんは自分の中に、「揺るがない形」のようなものはありますか?
私自身、今回の詩を読んでいると、「私」はたまたま訪れた人々に扱われるばかりで、あまり自分を持っていない印象を受けました。
芸術家も、金持ち?も、凡庸な一人も、誰でも何かの形を持っているというのに、「私」には揺るがない自分がありません。
そして、いつも、何もできないまま「私」は人々に置いていかれてしまう。
しかし、最後には「私」という形を失って初めて、どこか心が満たされる感覚がする。その瞬間、詩人は誕生したということなのでしょうか。
改めて、みなさんは自分の中に、「揺るがない形」のようなものはありますか?
自分でも読んでもなかなか難解な詩でしたが、どこか考える深みを残す作品となりました。
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