
イラスト:モノ/八坂零
本記事では、芥川龍之介先生が書いた純文学の短編小説『トロッコ』のレビューをしていきたいと思います。
歴史にも残る偉大な文豪、芥川龍之介。彼が描きたかったものはなんだったのか。現在もなお、研究されている素晴らしい作品です。
読めば、深い物語の底に嵌まるよう。短いけれど、中身のある世界を一緒に考えていきましょう。
※この記事の筆者は芥川龍之介をとても尊敬しているため、先生と敬称をつけています。
『トロッコ』の鑑賞ポイント!
『トロッコ』の鑑賞ポイント!

大好きなんです。芥川先生と芥川先生の作品が……。ただそれだけのための記事です。語りたい。みなさんにも読んでいただきたいです。どうか許してください。そしてよろしければぜひ、お付き合いください。
『トロッコ』のあらすじ
小田原熱海間で行われている軽便鉄道敷設の工事、8歳の良平はその工事をよく見物に行っっていた。しかし、その目的は工事ではなく、土を運搬する「トロッコ」が見たかったからだった。
良平は工事現場で働く土木にあこがれ、いつかトロッコを押したり、乗ったりしたいと思っていた。
そんなある日、若い二人の土木を手伝うふりをして、トロッコに乗ることに成功したのだが……。
『トロッコ』を読んだ感想(魅力・考察を語る!)
①:巧みな明暗表現―幼い心から見える世界への恐怖に、こちらもハラハラと思わず息をのむ
『羅生門』や『鼻』などで知られる芥川先生ですが、その文章表現は誰が読んでも素晴らしいという以外に、感想は出てきません。
そんな中でも『トロッコ』で私が注目したい表現は、8歳の主人公「良平」の視点に立つとあらわれる「世界への恐怖」です。
あらすじの続き、トロッコに乗ることに成功した良平は、満足感に浸ります。おそらくそれは一生この時が続けば良いのに、と思えるほどの快楽で、読んでいる私たちも良平の無邪気な願いの成就にほっこりとする。
特に作中の蜜柑畑は、明るい場面の象徴と言えるでしょう。
しかし、雲行きは次第に怪しくなります。前述の快楽には、終わりがなかったのです。辺りが暗くなってきてもトロッコは進むのをやめず、一緒に乗ってきた若い二人の土木に、良平は突然、独りで帰るよう言われてしまうのでした。
楽しく登り下ってきた勾配、竹藪(雑木林)、海……。明るい場面だった道のりは、帰りでは打って変わり、恐怖そのものとなります。「命さえ助かればーー」という良平のことばは、まさに暗い場面の象徴でしょう。
良平が涙をこらえながら必死に走って帰る様。私は、何度読んでも心臓がキュッと苦しくなります。
まるで、私たちにも似たような世界への恐怖体験があるかのようです。
他の作品とはまた違う、この巧みな明暗表現、読んだことのない方はぜひ味わってみてください。もちろん良い意味で、吐きます。
②:深く描かれている「大人」と「こども」
心理学で人の発達段階などを説明する際、この作品は大変役に立つかもしれない。と勝手に私は思っています。のちにその観点から、書評も書いてみたいです。
というのも『トロッコ』には「大人」と「こども」の関係が大変深く描かれています。
「こども」の代表として描かれる人物はもちろん良平。加えて、年下の2人。「大人」として描かれる人物はたくさんいます。そして、またここが『トロッコ』の面白い点ですが、この大人の中には、作中最後の26歳となった良平自身も含まれているのです。
みなさんは、「大人」と「こども」って何だと思いますか?
私はこの質問をされたら、永遠とその回答に頭を悩ませると思います。それぐらいにこの問いは、ことばで表すには難しいものです。
しかし、だからこそ、物語があるのです。あまりお話ししすぎると、作品を読む意味がなくなってしまいますので伏せますが、芥川先生はそれを見事に表現されています。
注目するポイントとして、お伝えできるとしたら、良平にとって登場人物である大人たちはどのような存在でしょうか。また、良平は何をされて、どう変容していくのでしょうか。
ぜひ、これらを考えながら読んでいただけると、私の感想が伝わるかと思います。
③:本が苦手な人でも読める、少ないページ数で中身のある物語
頭を使っていただいたあとは簡単に。
どれを取っても素晴らしい作品の『トロッコ』ですが、純文学を初めて読む方・本を読むのが苦手な方たちにもおすすめできる作品です。
どの文庫でもページ数は十ページをはみ出すか、はみ出さないか程度で読みやすいです。少し難しい表現や古い言い回しなどがあるかもしれませんが、そこを読み飛ばして読んでも、物語を十分理解することができます(さすが芥川先生!)。
少ないページで、でも中身のしっかりした文章を読みたいという方は、ぜひ、一度手に取って読んでみてください。
『トロッコ』レビューのまとめ
『トロッコ』の鑑賞ポイント!
純文学・短編小説の名作『トロッコ』は短いけれど、中身のある世界で、まさに一生考えることができる作品でした。
純文学を初めて読むという方はぜひここから。比較的、少ないページ数であるため、本が苦手で普段はあまり読まないけど、何か読んでみたいという方にもおすすめです。

お付き合いいただきありがとうございました。みなさんもこのレビューをきっかけに芥川先生が好きになっていただけたらとっても嬉しいです。ほんとに。
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