あらすじ
わずか、三秒の幸福。捻れた私の嘘つき曲がり角。
「僕」と「私」は、それぞれ想いを寄せているが、その気持ちにはお互いに気づかないまま、ただひとことの挨拶を楽しみに朝を迎えている。
『あっ、おはよう!』とぎこちない挨拶の右と左で分かれる、二人の視点。恋はすれ違いとあるが、これは本当のすれ違い。
作品(縦読み):PCの方におすすめ
PDFはリンクから、ぜひ全画面表示でお楽しみ下さい。
横読みはPDFの下部にございます。
『あっ、おはよう!』の前後で視点が切り替わりますので、どちらから読むことで、読後感が変わる仕様となっています。
作品(横読み):スマホ・タブレットの方におすすめ
『あっ、おはよう!』の前後で視点が切り替わりますので、どちらから読むことで、読後感が変わる仕様となっています。
一時間も早く目覚ましをセットして、寝癖を直すのにも時間かける。
その割に朝ご飯は軽く済ませて、自転車なのに学校までわざわざ遠回りをして、そのほか、たくさんの頑張りを乗り越えた先に僕の幸福はあった。
わずか、三秒の幸福。
彼女にとってはなんでもないただのすれ違いが、僕にとってはすべてだった。
もうすぐ見える曲がり角を左にいけば、僕は何も考えられなくなる。理屈っぽいこの頭は働かず、一瞬の中に映る彼女の姿を記憶することで必死になる。
考えるだけ無駄だ。曖昧な埋め合わせをするぐらいなら、いっそのこと「わからない」と一言で済ませたい。
他校の制服に身を包まれた姿に心がくすぐられる。風になびいた黒い艶やかな長髪に自転車の重心がぶれる。
挨拶だけだけど、返してくれるときの控えめな笑顔で、今日の僕は誰よりも運が良くなるんだ。
いつか、ちゃんと話しかけたい。
『あっ、おはよう!』
私の上擦った声と、彼の細く澄んだ声とが重なるその瞬間、すごく嬉しいような、すごく恥ずかしいような。
早起きをして、わざわざ遠回りをした甲斐があったとだけ思い、自分の顔が赤くなっていないかを触れて確かめ、胸の内が熱くなる。
それでもやっぱり恥ずかしさが勝って、後ろ姿の彼に振り向き、こっそり目で追いかける。捻れた私でごめんなさい。
彼には何でもないことなのに、勝手に謝ってみたりして。
この些細な出逢いに、どうしてこんなにも心動かされたのか、それは色が複雑に絡み合っているようではっきりしない。でも、これぐらいが好きだった。
一日に声を出すのが、彼に挨拶するときぐらいだから、その嬉しさに溺れて勘違いをしているだけなのかも。
けど、それなら私はずっと勘違いの海に溺れていよう。感情に身を捧げ燃焼しつつ、水の自然な冷たさが、まだ私を冷静に保っている。この矛盾をどうでもいいことと浮かして。
叶わないと思うからこそ、締め付けられるこの想い。
いつか、話しかけてほしい。
捻くれ私の曲がり角、僕の三秒の幸福
2025年4月20日 執筆
著者 八坂零
掲載 芸術の星座
筆者からひとこと
最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。
いかかだったでしょうか。『捻くれ私の曲がり角、僕の三秒の幸福』
体裁としては、ある言葉をきっかけに視点が切り替わるという実験的な小説です。
「僕」と「私」のそれぞれの想い、恋のすれ違いをみなさんにお伝えすることはできましたでしょうか。
私はこんな想いを持ったことも運命的な出逢いをしたことも、未だかつてないのですが、物語などでこういう青春的な場面が語られると、懐かしく思えたり、どこか羨ましく思えたりするのって不思議ですよね。
さてさて、みなさんははじめは一行目から読んでくださったかと思いますが、ぜひ、こちらの小説、「私」からも読んでみてください。
話しかけようと思っている「僕」と話しかけてほしいと思っている「私」。両者が前後に来ることで『おはよう』の意味合いに微妙な変化が生まれているような気がします。
二人の共通点、すれ違っている点、いろいろな部分に注目していただけたら幸いです。
そして、絶賛、片想いをしているという方。
その想い、本当は「片」ではないかもしれません。みなさんの恋路が素晴らしいものとなることを願っています。
青春を感じて幸せな気持ちになりましたら、さらに幸せを! ということで、流浪放浪の癒し旅へ。どうぞ、いってらっしゃいませ!
コメント欄