『くだもの』.平山 和子 作.福音館書店
本記事では、平山和子さんの食欲そそる果物たちの絵本『くだもの』(初版年月日 1981年10月20日 福音館書店)のレビューをしていきたいと思います。
まるで本物のような自然を描く、平山和子さん。色を繊細にとらえたタッチで、今も多くの読者を惹きつけ、今回ご紹介する『くだもの』のほかにも、『たんぽぽ』や『いちご』など、数々の名作を残しています。
身近なくだもので、子どもたちは興味津々に。
大人は魅力的なくだものの絵を、芸術作品として鑑賞できる。
親子でそろえば、「さあ どうぞ」の掛け声とともに、絆を育める。
どんな人でも楽しめること間違いなし!
ページを開けば、誰もが甘美なる「くだもの」たちの世界を味わえる、そんな素晴らしい絵本の世界をご紹介していきます。
『くだもの』のおすすめポイント!
『くだもの』のおすすめポイント!

一見、くだものが並んでいく単純な絵本かと思いきや、中身はとても奥が深い絵本です。お子さんのいる親御さんには、ぜひ、おすすめしたい作品です。さらに芸術作品と言ってよい魅力的な絵は、大人の読書としてもおすすめです。
『くだもの』のあらすじ
すいかから始まり、ももやりんご、ぶどう……。
一ページは「くだもの」そのままの姿が描かれ、次には「さあ どうぞ」の言葉とともに切り分けられた絵に。
最後のバナナには、子どもの成長も垣間見えてきて……。
『くだもの』を読んだ感想(魅力を語る!)
①:食欲そそる、とってもリアルで魅力的な「くだもの」たちの絵
平山和子さんと言えば、平山英三さんとご夫婦で、自然を細かく見つめた素晴らしい絵を描くことがよく知られていますが、『くだもの』でもその良さは顕著に表れています。
表紙画像を見ただけでもお分かりいただけるかと思います。
とても良く観察が行き届いた、スケッチのような絵です。くだもの、個々の微妙な大きさの違いや模様の変化、そしてなんといっても「繊細な色彩表現」です。
言葉で言うと、たとえば「りんごは赤いもの」というように、単純な色として認識されてしまいがちです。しかし、実際に目にするりんごというのは、おしりへ向かうにつれて黄色が混じってきたりします。
平山和子さんはそんな、くだもの一つひとつの微細な違いまで見逃すことなく、見事に描き切っています。
また、これは同時に、芸術的な子どもの視点と考えることもできるでしょう。
ピカソの「Every child is an artist.」という言葉をご存知でしょうか。
これは、「子どもはみな芸術家だ」という意味で訳されますが、子どもの見る視点というのは、知識として知っていて見るのではなく、世界をそのままにとらえているのです。
平山和子さんの絵も、まさにピカソの言葉のように考えることができます。
たとえの「りんごの色」を知識として赤と知って描いているのではなく、生で見て、赤から黄色で(実際はもっと細かい色彩表現で)表しているのです。
これが絵本の絵でありながら、芸術作品ともいえる部分でしょう。
②:子どもにもわかる身近なくだものたちに、「さあ どうぞ」のひとことで、親子の絆を深めることができる
子ども向けの絵本ということもあり、『くだもの』の魅力として挙げられるのは、やはり、「選ばれているくだものがこどもたちの身近にあるもの」だということ。
そのため、親御さんがお子さんに読み聞かせをしてあげる際、反応を得やすいと思います。とはいえ、必ずしも子どもだけに合わせているわけではないので、それこそが魅力だと私は考えます。
そして、最も私がおすすめしたいのが、この絵本を読むことで「親子の絆を深めることができる」という点。
あらすじの通り、この絵本の構成は、一ページにくだものの生の姿、次にくだものが切り分けられた姿となっています。
くだものが切り分けられたとき、そこには「さあ どうぞ」という言葉があります。
これがとても魅力的な点で、親御さんがお子さんに読み聞かせをしてあげる際、この言葉とともに身振り手振りを見せてあげることで、親子でコミュニケーションを取ることができるのです。
さらに、単に切り分けられているというだけでなく、きちんとフォークや手を差し伸べる絵も描かれているので、お子さんも手を伸ばしやすいです。
絵本は芸術作品であり、親子のコミュニケーションツールでもあると私は思っております。そのどちらの要素も完璧に含んでいる『くだもの』はやはり素晴らしい絵本と言えますね。
③:子どもの成長も描かれた、しっかりと中身(物語)のある内容
構成から考えると、この絵本は、絵などには大変魅力のある部分が多いけれど、内容や物語的な部分にはそこまで魅力を感じないのでは? と心配になる方もいらっしゃると思います。
ですが、ご安心を。まったく、そんなことはありません。
私が語りたい魅力③はまさにそこで、単純なくだものと「さあ どうぞ」の掛け合いだけではない「子どもの成長も描かれた、しっかりと中身のある内容」です。
「さあ どうぞ」というのは、くだものを渡す側と受け取る側がいる、という前提で描かれた場面です。それはまず、物語の始まりと言えましょう。
注目すべきは、徐々にその両者が離れた視点になっていくという部分です。ページが進むにつれて、渡す側と受け取る側、この二つの存在の距離は適切な距離へと変化していきます。
そして、最後のバナナになったとき、そこには……。
というところで、すべてを話してしまっては勿体ないため、続きはぜひ、みなさんの目でご覧ください。
きっと、読み終えた後には、お子さんの成長と親御さん(大人のみなさん)の感動が生まれていることでしょう。
『くだもの』レビューのまとめ
『くだもの』のおすすめポイント!
平山和子さんの食欲そそる果物たちの絵本『くだもの』は、こどもも大人も関係なく楽しめる魅力的なくだものたちの絵に、親子の絆も深めることができる、そんな絵本でした。
そのため、お子さんがいらっしゃる親御さんの方々にはもちろん。芸術作品として、おいしそうな「くだもの」たちの絵を楽しみたいという大人にもおすすめです。

リアクション絵本のように、淡々とくだものたちの絵が進んでいく絵本かと思いきや、『くだもの』にはしっかりと練り上げられた物語があります。素晴らしい最後の結末を、ぜひ、みなさんの目でお確かめくださいね。
もっとおすすめの本を知りたいという方へ。
親子で楽しめる福音館書店の絵本として、ぜひ、『がたんごとん がたんごとん ざぶんざぶん』のレビューもお楽しみください。
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