あらすじ
まわりの人に合わせて作る笑顔、「似笑顔」。
主人公は本当の自分を見せることで、誰かに嫌われてしまうのではないかと恐れていた。しかし、そんなところ、まわりの反応を気にせず、はっきりものを言いすぎるせいでいじめられている「君」に話しかけられる。
評判はどうであれ、彼女の本物に主人公は……。
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いじめられっ子の君に「いつも濁った笑顔だね」って。そんなことを言われても仕方がなかった。
僕が見せる笑みは誰にでも通用する、まがいものの似笑顔だ。
不幸だったのは、それがまわりには評判が良かったということだろう。みんな、ただ相槌を打ってくれる都合の良い人形に満足していた。
自業自得でもある。怖かったのだ。話していて嫌な素振りを一度でも見せられたら、山奥まで走って行ってしまいそうなぐらいだった。大げさじゃない。
これは、勇気のない自分への罰だ。僕はこのまま一生、誰にも本当の部分を見せることなく、負の想像に怯えながら消えていく。
そう思っていたところに、君は現れた。
「ねぇ、無地のパンって、ずっと食べてたら飽きない?」
ふと、囲まれる人気を避けたかったとき。初めて君が話しかけてきたのは、ひょんな事柄だった。どうしてそこが引っかかったのだろう。
それに普通、初対面はそれなりの疑心と緊張をもって、最低でも敬語からのはずだ。違うかな? 僕はそうしている。
君は、はっきりものを言いすぎる。そのくせ真意は大体テキトウで突然で……。だからまわりには、君を好ましく思わない人ばかりだった。
でもね、そんな君だったから勇気をもらったんだ。
評判の良い僕の似笑顔を指摘されたときは驚いたけれど、あとに言ってくれた「私は何とも思わないから素直に笑ってよ」という言葉に、どれだけ救ってもらったか知らないだろう。
僕は知っているよ。いつもテキトウに明るくニコニコしている君の顔が真剣になったのを。
それから、わかったことがある。よく見れば、僕だけじゃなかったこと。みんなもどこかで似笑顔を作っていた。みんなも怖かったんだと、気づけたんだ。
あと、僕は君が羨ましくて、かっこいいと思っていた。何にも左右されない。ううん、いじめられる怖さに飛び込ながら、まっすぐにいられる君の強さが、本物だったから。
乗り越えた先で君のようになれるなら、僕も頑張りたい。見てて。
「ごめん、そういうの好きじゃないんだ」
不器用でもちゃんとできているかな、笑顔。
似笑顔
2025年4月1日 執筆
著者 八坂零
掲載 芸術の星座
筆者からひとこと
最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。
いかかだったでしょうか。『似笑顔』
こちらの小説、執筆日が4月1日ということでエイプリルフールをテーマとした作品でもあります。
現代では生きていると、人付き合いが多く、とても疲れますよね。その疲れに順応して、私はついつい、人の顔色に合わせて笑う、作中のような「似笑顔」を作ってしまいます。
似笑顔を作るととても楽です。場合によっては人気者にだってなれるかもしれないですし、いざこざが生まれることがまずないでしょう。
しかし、本物はできないのもまた確かなことでしょう。自分の素を見せていないのですから、当然ですよね。今回の作品は、その間で葛藤する主人公でした。
みなさんは、本物の顔で、ちゃんと笑えていますか?
それをまずは考えてほしいと思って書きましたが、さらに考えてくださる方がいらっしゃいましたら、ぜひ「いじめらっれ子の君」の気持ちについても考えてみてください。
主人公視点で語られる本作ですが、「君」の視点を考えると、その笑顔にもまた違った感想が生まれるかもしれません。
まだ読み足りないという方は、同じ桜のアイキャッチ画像を使用し、少し切なさを味わえる詩もぜひご覧ください。
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