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今にも破れてしまいそうな風栓が、小さな棘のアスファルト上で耐えている
僕は見つめ続ける以外を知らなかった
破れてゆくのを待つことしかできない 支えてやるなんてできない
風栓は独り、叫んでいた
破れる! 破れる! 破れる! 破れる!
大切にするには考えないこと、きみは僕の隣にいた
流れてくる蒼い空気に触れて、僕は同時に、きみも見つめ続けていた
きみは笑っていた、いや、ほんとは微笑んでいたのだった
恥ずかしくなって、顔がアツアツになって、でも、逸らせない
栓を抜いて、いつか萎んでいってしまうことも、僕には怖くて堪らなかったのだ
「どうしたらいい?」
僕は聞く。
きみだけが答えた。
「殘るものだから、一旦、落ち着きを取り戻して」
そして、決めた
きみの瞳に映る裏風栓を抱き上げる
もっと膨らませてしまえ
裏風栓は叫ばない
裏風栓は萎まない
皮が伸びるだけだ
目醒めた僕の瞳には、きみが溶け込んでいた
目を逸らした
風栓の行方は、遥か詩の彼方に
僕は意図的かつ無意識的に鈍感だった それでも 今もこの内に火照りが佇んでいる
表裏風栓
2021年10月22日 執筆
著者 八坂零
掲載 芸術の星座
筆者からひとこと
最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。
いかかだったでしょうか。『表裏風栓』
風船が風栓となっていることに違和感を覚える詩ですよね。
「僕」はこのとき、一体、何を考えていたのでしょうか。おそらく、風船(風栓)の中には人の命とも言える息吹が入っていると考えていたのではないでしょうか。
だからこそ、人々に見て見ぬふりをされて破裂してしまいそうな風船は叫んでいる。
しかし、その状況を「僕」は今まで、見つめ続けていながら、知らないふりをしてきてしまった。いや、そうしていたことにすら気づいていなかったのです。それはまるで、あとに出てくる裏世界の「君」が「笑っていた」のではなく「微笑んでいた」ように。
考えないように目を閉じたりしても、考えてしまう。みなさんもご経験ありますか?
「僕」の場合、そうしたときに「君」が瞳の裏に現れるのだと思います。
君と話したあと、「僕」はやはり目を逸らす。しかし、今度は気づいてなお、見て見ぬふりをする。
さて、
それでも残る火照りとは何なのか。
「僕」と「君」は表裏一体の自分なのか。
風船ではなく、風栓なのか。
考えていただけましたら幸いです。
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